「みっちー」の想い出を綴っています。
訪問歯科の現場で起こった実際のお話を、コンパクトにしています。
酸素吸入をしている元気なおじいさん。
診療開始直後は、いろんなお話をしながらケアをおこなっていて、
特に演歌が大好きで、演歌歌手のことを「○○先生」と呼んでいるほどで
今では珍しい、カセットテープが沢山置いてありました。
演歌のお話をしている時は、素敵な笑顔で嬉しそうに話してくださいます。
ところがある日突然、診療を頑なに拒み始めました。
何かお気にさわることを言ってないかなど、いろいろ考えましたが
思い当たる節はありませんでした。
訪問先の職員さんに聞いてみると、
精神科の先生に「あまり人と接してはダメです」と言われていたようです。
コロナ禍ゆえなのか、ご病気のためなのか、
先生に言われたことを一生懸命に実行される、まじめな方でした。
そこで、「先生のお話は聞く」とのことなので、訪問の歯科医師の先生に
白衣で診療してもらうことにしました。
なぜ、白衣にする提案をしたかというと、
訪問では「スクラブ」を着て診療しているところが多いので、白衣の方が「先生」らしいので。
すると、少し歩み寄りがみられて僅かですがお話ができる程度になりました。
今度はそのお爺さんから「先生、名刺をくださいな」と言われ、
これはチャンスと思い、先生に名刺を渡してもらうと
「へぇ、○○大学なんだ~」と、食い入るように見ていて
お部屋の奥には入れてくださらなかったですが、(主治医の指示を本人の解釈で)
入り口付近の洗面所でのケアをさせてくださるようになりました。
嚥下リハも積極的にやってくださるようになり、若い頃にはジムにも通っていた
と言って、筋肉を見せてくれたり、身体の柔らかさを見せてくれたりなど、
よく話してくださるようになりました。
しかし、そんな日も長くは続かず、ある日「もう診なくていいです!」
と、仰るようになりました。
また、何かの変化があったのかもしれないな~と思っていたのですが、
それから2週間後ぐらいに、ご病気が悪化して入院(退居)してしまわれました。
何かを感じていた、ってことは無いかと思うのですが・・・
・訪問先の職員さんに、現況を確認できた
・お聞きした内容を基に訪問チームがアイデアを出し、白衣で診療した
・名刺が欲しいと言われて、お渡しした名刺が良かった
演歌やジムのお話ができ、その時は素敵な笑顔を見せてくださり、
多少なりとも、ご本人の「心の癒し」にもなれたかと思っています。
主治医の先生の指示をしっかりと守られていることも素晴らしかったです。
短い期間ではありましたが、訪問チームも良い勉強ができたことでしょう。